セキュリティ対策連載 #1 「回答が返ってこない」――現場の疲弊から始まる、形だけのセキュリティチェックシート運用
- niwanaga
- 2月26日
- 読了時間: 7分
更新日:5 時間前
当社のセキュリティレポートでは、脅威動向や攻撃手法、対策の考え方など、いわゆる「外から見えるリスク」を中心に解説してきました。
しかし実際の現場では、それとは別の悩みが日々積み重なっています。対策は求められているのに、運用が追いつかない手順は増える一方で、効果が実感できない「やっていること」と「守れている実感」が結びつかないこうした声は、どの企業・どの担当者にも共通して聞かれるものです。
本連載では、最新の脅威解説ではなく、現場で実際に起きている“運用の偏り”や“形だけになりがちな対策”に焦点を当てます。日々の業務の中で感じる違和感や負担の正体を一つずつ言語化し、「なぜうまく機能しないのか」を実務の視点から整理していきます。
セキュリティチェックシートとは?
セキュリティチェックシートとは、企業が取引先・委託先(サプライヤー)やクラウドサービス提供者の情報セキュリティ体制を評価・確認するための質問票(チェックリスト)のことです。自社のセキュリティポリシーや基準(ISO27001準拠、NIS2指令対応など)を満たしているかを、設問形式で自己申告してもらうツールで、項目数は数十〜数百に及びます。主な目的は、サプライチェーンリスクの把握と、機密情報漏えいなどの事故を未然に防ぐことです。
大企業では購買・調達・ITリスク管理部門が、中小企業では総務や情報システム担当がこれを作成・送付し、回答を回収・分析しています。
「回答が返ってこない」――現場の疲弊から始まる、形だけの運用
「回答が返ってこない」――現場の疲弊から始まる、形だけの運用「チェックシートを送ったが、期限を過ぎても返ってこない」「催促の連絡をすると、先方の担当者から不満を言われてしまう」「ようやく集まった回答を表にまとめているだけで、ひと月が終わる」サプライヤー管理や委託先管理に関わる担当者であれば、一度はこの状況を経験しているのではないでしょうか。本来、リスクを減らすための取り組みであるはずのチェックシートが、いつの間にか「回収すること自体が目的」になっています。多くの企業が時間と費用をかけて実施しているこの活動が、実は十分な効果を生んでいない。現場では、そんな違和感が静かに積み重なっています。

なぜ、あれほど頑張っても“形だけ”になってしまうのか
原因は、担当者の努力不足ではありません。むしろ逆で、現場はすでに限界まで頑張っています。問題は、セキュリティチェックシートという手法そのものが持つ構造的な弱点にあります。■ なぜ返ってこないのか(現場で起きているリアル)セキュリティチェックシート(取引先への対策確認書)は、出す側は「重要な統制」だと思っていますが、受け取る側にはこう見えています。
① 担当部署が存在しない(特に中小企業)
大企業:情報システム部・セキュリティ担当がいる
中小企業:総務が兼任、営業が押し付けられる
「誰が答えるのこれ?」状態 → 結果:回答が先延ばしになってしまう
② 質問が専門的すぎて答えられない
よくある質問例:
ログの保管期間は?
脆弱性管理プロセスは?
インシデント対応体制図は?
現実:「そんな正式な運用してない…どう書けばいいの?」
→ 書けない=回答が先延ばしになってしまう
③ 優先順位が最低ランクになる
受け取る側の優先順位はこうです。
売上に直結する仕事 → 納期対応 → 社内トラブル → 見積・請求 ……
取引先のセキュリティチェックシート ←ここ
→ 緊急でも義務でもないので後回し
④回答するのは 1社だけでない(しかも会社ごとに質問内容やボリュームが異なります)
⑤ 出しても何も起きないと思われている
過去の経験から、
出してもフィードバックなし
評価結果も来ない
ただの形式提出
→ 「これ意味あるの?」となる サプライヤー側は多いそうです。
アンケート運用で起きている現実(チェックシート版)
回答依頼・催促・回収に膨大な手間がかかる
回答内容の確認に時間が取られ、本来の分析ができない
各社ごとに形式が違い、比較ができない
毎年同じ内容を繰り返しているだけになる
「やった記録」は残るが、改善につながらない
つまり、管理しているように見えて、実態は把握できていないのです。

リスク管理の本質は「疑うこと」ではない
ここで誤解してはいけないのは、サプライヤーや現場を疑いたいわけではない、という点です。
ほとんどの企業は誠実に対応してくれています。問題は、人ではなく「仕組み」にあります。
現在のアンケートは、どうしても次の前提に依存しています。
相手の自己申告を信じるしかない
しかし、ここに大きな限界があります。
「実施しています」という回答は、本当に今の状態か?
次のようなケースは珍しくありません。
去年の回答をそのまま使い回している
現場と回答内容が一致していない
担当者が変わり、実態を把握していないまま回答している
実装予定の対策が「実施済み」として記載されている
これは悪意ではなく、チェックシートという形式では実態を確認できない という問題です。
つまり、
善意の申告
客観的な事実
この二つを照合する手段が、現状ほとんど存在していません。

外部委託しても、問題は解決しない理由
負担軽減のために、アンケート配布や回収を外部に委託するケースも増えています。
確かに作業量は減ります。しかし、ここにも落とし穴があります。
よくある委託後の状態
回収作業は楽になったが、中身の検証ができない
分析過程が見えず、判断材料として使いづらい
結果は報告書として届くが、改善アクションにつながらない
結果として残るのは、
「実施した」という記録だけ
これでは、企業を守る活動ではなく、単なる説明資料作成に近い状態になってしまいます。
それは本当に、会社を守る仕組みになっているか?
ここで改めて考える必要があります。
アンケートの目的は何でしょうか。
回収率を上げることではない
報告書を作ることでもない
監査対応のための資料作成でもない
本来の目的は、ただ一つです。
現実のリスクを正しく把握し、対処すること
もし現状が、
手間は増えている
実態は見えていない
改善にもつながっていない
のであれば、それは運用の問題ではなく、方法そのものを見直す段階に来ている のかもしれません。
形骸化の背景にあるのは「努力の問題」ではなく「確認の仕組みの難しさ」
多くの現場が疲弊している理由は明確です。
確認できないものを、確認しようとしているからです。
自己申告に頼る方法だけでは、
状況の変化に追いつけない
継続的な把握ができない
客観性を持てない
この構造的な限界こそが、チェックシート運用を「やっているというアリバイ作り」に変えてしまう最大の要因です。

次回予告
では、これから求められる管理とは何なのでしょうか。次回は、各種ガイドラインが実は強く示している“見えていなければ管理とは言えない”という考え方を読み解きながら、従来型のセキュリティチェックシート運用がなぜ通用しなくなっているのかを、もう一歩踏み込んで整理します。
✦ さいごに
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
私たちPIPELINE株式会社は、私たちは、サイバーセキュリティと脅威情報(Threat Intelligence)を専門とする専門家集団として、
日々、現場でお客様とともに脅威に向き合っています。
「社内に専門チームがあっても、リソースが足りない」「どこから手をつけたら良いか分からない」「攻撃される前提で現実的に備えたい」
といったご相談は少なくありません。会社の規模に関係なく、守りが弱い部分を狙われやすいというのが今の状況です。
そして、社内だけで抱え込むことで、どうしても見落としが生まれやすくなります。
だからこそ、私たちは理想論ではなく、現場で役立つ方法に絞り、スモールスタートで手軽に始められる形をご提案しています。「できる範囲の一歩」でも、安全性は大きく変わります。
少しでも不安があれば、どうぞお気軽にご相談ください。最短でセキュリティ強化に繋げる方法を共に整えていきましょう。


















