「ゼロトラスト」とは 〜戦略と効果〜
- Pipeline Co. Ltd.
- 2021年10月15日
- 読了時間: 11分
ゼロトラストとは 〜戦略と効果〜
ゼロトラストとは、企業のセキュリティ体制を強化するためのアプローチの一つです。従来のセキュリティモデルでは、社内ネットワークを信頼し、外部を不信とする「信頼できる内部、信頼できない外部」という考え方が一般的でした。しかし、ゼロトラストモデルでは、この境界を取り払い、内部であっても外部であっても、すべてのアクセスに対して信頼を置かず、常に検証を行うことを基本原則としています。

ゼロトラストの基本要件
具体的には、以下の要件があります。
最小限の権限(Least Privilege)
ユーザーやシステムは、必要最小限のアクセス権限のみを持つべきです。これにより、権限が乱用されるリスクを減らします。
厳格なアクセス制御
すべてのユーザーとデバイスは、ネットワークにアクセスする前に厳密な認証と認可を受ける必要があります。
マイクロセグメンテーション
ネットワークを細かく分割し、セキュリティを強化します。これにより、攻撃者がネットワーク内で自由に動き回ることを防ぎます。
マルチファクタ認証
パスワードだけでなく、二要素以上の認証手段を使用します。
エンドポイントセキュリティ
すべてのデバイスはセキュリティチェックを受け、安全であることが確認されなければネットワークに接続できません。
リアルタイムの監視とレスポンス
セキュリティイベントをリアルタイムで監視し、異常が検出されたら即座に対応します。
ゼロトラストの戦略
ゼロトラストの戦略として、以下のような実装を行います。
継続的なリスク評価
定期的にリスク評価を行い、セキュリティポリシーを更新します。
セキュリティポリシーの明確化
明確なガイドラインとポリシーを設定し、従業員に周知させます。
技術的な解決策の導入
適切なセキュリティソフトウェアとハードウェアの導入が必要です。
従業員のトレーニング
セキュリティ意識の向上を図るために、従業員に対する教育とトレーニングが重要です。
パートナーやサプライヤーとの連携
セキュリティは、企業内部だけでなく、パートナーやサプライヤーを含むエコシステム全体で考慮する必要があります。
企業がゼロトラストモデルを採用する際には、上記の要件と戦略を踏まえた上で、自社のビジネスに合わせて適切に実装することが求められます。セキュリティのニーズは常に変化するため、柔軟かつ適応性が高いアプローチが必要となります。
ゼロトラストのメリット
ゼロトラストセキュリティモデルを導入することで得られるメリットは多岐にわたります。以下はその主なメリットです。
内部からの脅威への対策強化
従来のセキュリティモデルでは、内部ネットワークは信頼されていましたが、ゼロトラストでは内部からの脅威にも目を向けます。内部者によるデータ漏洩や悪意のある活動への防御が強化されます。
リモートアクセスのセキュリティ向上
リモートワークの増加に伴い、外部からのアクセスが常態化しています。ゼロトラストモデルは、リモートアクセスにおいても厳格なアクセス制御と検証を行うため、セキュリティを確保しやすくなります。
攻撃面(アタック・サーフェース)の縮小
最小限の権限とマイクロセグメンテーションにより、攻撃者がネットワーク内で拡散する機会を減少させます。これにより、攻撃面が縮小し、セキュリティインシデントの影響を局所化できます。
コンプライアンス要件の遵守
厳しいデータ保護規制に対応するため、ゼロトラストは必要最小限のデータアクセスを実施し、データの保護とプライバシーを強化します。
リアルタイムの監視と応答能力の向上
継続的な監視と自動化されたレスポンスにより、セキュリティインシデントに迅速に対応できる体制が整います。
クラウド環境との互換性
ゼロトラストはクラウドベースのサービスとの統合が容易であり、クラウド環境でのデータ保護を強化します。
ユーザーエクスペリエンスの改善
ユーザーはどこからでもセキュリティの確保された方法でリソースにアクセスできるため、生産性を損なうことなくセキュリティを確保できます。
ビジネスの柔軟性と拡張性の向上
セキュリティモデルが柔軟であるため、新しいビジネスニーズや技術の導入に迅速に対応できます。
コスト削減
セキュリティインシデントの数と影響を減らすことで、長期的にはセキュリティ関連のコストを削減することが期待できます。
さらに、ビジネス基盤のセキュリティ効果にとどまらず、従業員の意識や仕事の振る舞いにも変化をもたらします。
従業員への影響
アクセス権限の変更
最小権限のポリシーにより、従業員は必要最低限のリソースへのアクセスしか許可されない可能性があります。これは、業務に必要な情報やシステムへのアクセスに影響を与えることがあります。
ログインプロセスの厳格化
マルチファクタ認証(MFA)の導入により、ログインプロセスが複数の認証ステップを要求するようになります。これはセキュリティを向上させる一方で、従業員には少しの手間を要することになります。
頻繁なセキュリティチェック
セキュリティポリシーの適用と監視が強化されるため、従業員は日常的にセキュリティチェックを受けることになります。これにはデバイスの健全性チェックやアクセス試行時の動的なリスク評価が含まれることがあります。
セキュリティ意識の高まり
セキュリティトレーニングと教育が強化されることで、従業員はセキュリティに対する意識を持続的に高めることになります。これにより、セキュリティを考慮した業務実行が求められます。
新しいツールの使用
ゼロトラストに必要な新しいセキュリティツールやソフトウェアの使用が必要になります。このために、従業員は新しいシステムに慣れる必要があります。
リモートアクセスの改善
ゼロトラストモデルはリモートワークやモバイルワークを支援するために有用です。セキュアな環境からどこでもアクセスできるようになることで、柔軟な働き方が可能になります。
通信の変化
従業員間のコミュニケーションやデータ共有の方法にも変化が生じることがあります。セキュリティを考慮したデータ共有が導入されるため、従来の方法とは異なるアプローチが取られることになります。
インシデントへの対応
セキュリティインシデントや異常を発見した際の報告と対応のプロセスが定められます。従業員はこれらのプロセスに従って迅速に行動することが求められます。
ゼロトラストは、これらのメリットを享受するために、組織全体のセキュリティ文化を変革し、セキュリティをビジネスプロセスに組み込むという考え方に基づいています。それにより、組織はより効果的に現代の脅威に対処できるようになります。
ゼロトラストへの移行
ゼロトラストモデルへの移行に伴うコストや時間は、以下の要素によって大きく異なります。
組織の規模
大企業の場合は、多数のユーザー、デバイス、アプリケーションを管理しているため、移行にはより多くの時間と資源が必要です。
現在のITインフラの状態
古いシステムやカスタマイズされたソリューションを使用している場合、移行はより複雑かつ時間がかかる可能性があります。
必要なセキュリティ技術の導入
マルチファクタ認証、エンドポイントセキュリティソリューション、ID管理ツールなど、新たに必要となる技術が多ければ多いほど、コストが増加します。
ポリシーとプロセスの再設計
ゼロトラストポリシーを策定し、実装するためには、既存のポリシーの見直しや新しいポリシーの作成が必要です。これには時間がかかることがあります。
従業員のトレーニングと文化変革
従業員への教育プログラムや意識改革にも費用と時間がかかります。ゼロトラストは単なる技術的変更ではなく、組織文化の変革も伴います。
プロジェクト管理とサポート
移行プロジェクトを管理するための内部リソースか、外部のコンサルタントに依頼するかによってもコストが異なります。
具体的なコストや時間については、以下のように見積もります。
初期コスト:
新しいセキュリティソリューションの購入、システムのアップグレード、外部の専門家へのアドバイス料などが含まれます。
運用コスト:
新しいシステムの維持管理、定期的なトレーニング、監視などが続くコストです。
移行期間:
小規模な組織で数か月、大企業では数年にわたるプロジェクトになることがあります。
実際には、組織の特定の状況に応じて、詳細なコスト見積もりとタイムラインが必要です。移行は段階的に行われることが多く、すべてを一度に行うのではなく、リスクを管理しながら徐々にゼロトラストの原則を適用していくことが一般的です。
最新トレンド
ゼロトラストセキュリティの概念は進化を続けており、いくつかの最新トレンドが見られます。
クラウドネイティブセキュリティの統合
ゼロトラストの原則はクラウドネイティブアプリケーションとサービスに適用されており、クラウドのセキュリティアーキテクチャにゼロトラストを組み込む動きが加速しています。
エンドポイントのセキュリティ強化
リモートワークの増加に伴い、エンドポイントデバイスのセキュリティが強化されています。エンドポイント検出と応答(EDR)やモバイルデバイス管理(MDM)のようなソリューションが重要視されています。
AIと機械学習の活用
ゼロトラスト環境の監視と管理に、AIと機械学習が活用されています。これにより、異常な振る舞いをリアルタイムで検出し、自動化されたセキュリティ対策を講じることが可能になっています。
アイデンティティアクセス管理(IAM)の進化
ユーザーのアイデンティティが新たなセキュリティ境界となるため、IAMのソリューションがさらに高度化しています。多要素認証やリスクベースのアクセス制御が標準的な機能となっています。
セキュリティオーケストレーション、自動化(SOAR)
セキュリティの自動化とオーケストレーションが注目されており、多くの企業がSOARソリューションを導入しています。これにより、セキュリティイベントへの対応を迅速化し、効率を高めています。
マイクロセグメンテーション
ネットワークを細かく分割し、個々のセグメントをセキュアに管理するマイクロセグメンテーションの採用が増えています。これにより、内部からの脅威や横展開を効果的に防ぐことができます。
サイバーセキュリティメッシュ
分散されたIDとポリシーの管理を可能にするサイバーセキュリティメッシュアーキテクチャが注目されています。これは、異なる場所とプラットフォームにわたるセキュリティの統一と柔軟性を提供します。
ゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)
VPNの代わりにZTNAが推進されています。ZTNAは、ユーザーに必要なアプリケーションへのアクセスのみを許可し、ネットワークそのものへのアクセスを隠蔽します。
これらのトレンドは、セキュリティ環境がますます複雑になる中で、ゼロトラストの原則を実装し、維持するための効率性と効果性を高めるために進化しています。企業はこれらの新しい技術や戦略を取り入れることで、セキュリティ体制を強化し、変化する脅威環境に対応するための準備を進めています。
結論
ゼロトラストセキュリティモデルは、企業のセキュリティ対策を強化するための現代的なアプローチであり、内部および外部からの脅威に対応するために「信頼しない、常に検証する」という原則に基づいています。このモデルでは、従来の境界に基づくセキュリティではなく、アクセスのたびにユーザーとデバイスを検証することを要求します。
ゼロトラストの導入には、最小限の権限、厳格なアクセス制御、マイクロセグメンテーション、マルチファクタ認証、エンドポイントセキュリティ、リアルタイム監視といった要件が含まれます。これらの要件を満たすためには、継続的なリスク評価、セキュリティポリシーの明確化、技術的な解決策の導入、従業員のトレーニング、そしてパートナーやサプライヤーとの連携が不可欠です。
ゼロトラストモデルへの移行は、従業員にとって新しいセキュリティプロセスやツールの使用、アクセス権限の変更、ログインプロセスの厳格化などの変化をもたらしますが、これによって内部からの脅威に対する対策が強化され、リモートアクセスのセキュリティが向上します。また、組織はコンプライアンス要件の遵守を強化し、エンドポイントのセキュリティを強化することができます。
最近のトレンドとしては、クラウドネイティブセキュリティの統合、AIと機械学習の活用、アイデンティティアクセス管理の進化、セキュリティオーケストレーションの自動化、マイクロセグメンテーション、サイバーセキュリティメッシュ、ゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)などが挙げられます。これらの進展は、ゼロトラストモデルをより実装しやすく、効率的で効果的なものにするために重要です。













