安全で信頼性の高いコネクテッドカーや自動運転技術の実現において、自動車産業のサイバーセキュリティ対策が求められる理由は多岐にわたります。まず、自動車業界でセキュリティ対策の重要性が高まっている背景には、CASE技術の進展に伴う自動車のIoT化があります。車両がインターネットと常時接続するようになり、ICT端末としての機能を持つようになったことで、従来の自動車の概念が大きく変化しました。これにより、新たなビジネスの拡大や社会課題の解決が期待される一方で、サイバーセキュリティの課題が浮上しています。 実際に、トヨタ自動車やマツダなどの大手自動車メーカーでもサイバー攻撃の被害が発生しており、ランサムウェア攻撃による生産ライン停止など、業務への重大な影響が報告されています。特に、サプライチェーンを狙った攻撃が増加しており、部品メーカーへのランサムウェア攻撃が大手自動車メーカーの生産ラインを一時停止に追い込むなど、業界全体に影響を及ぼす事態が発生しています。 2022年2月末、トヨタ自動車の主要取引先である小島プレス工業がランサムウェア攻撃を受けました。この攻撃により、小島プレス工業の社内サーバーに障害が発生し、部品の受発注システムが使用不能となりました。その結果、トヨタ自動車は2022年3月1日に国内全14工場28ラインの稼働を停止せざるを得なくなりました。この1日の稼働停止だけで、約1万3千台以上の車両生産に遅れが生じ、業界全体に大きな衝撃を与えました。 一方、マツダも2023年7月24日に外部からの不正アクセスによる被害を受けました。マツダのサーバーで不審な通信が検知され、調査の結果、同社がアカウント情報を管理しているシステムへの不正アクセスが確認されました。この攻撃により、社員、協力会社社員、取引先担当者など、計104,732件分の個人情報が流出した可能性が明らかになりました。 2015年、セキュリティ研究者のチャーリー・ミラーとクリス・ヴァラセクが、Jeep Cherokeeの無線通信サービス「Uconnect」を介してECU(Electronic Control Unit)を攻撃し、エンジンやステアリング、ワイパーを遠隔操作できることを実証しました。この事態を受け、FCA社は大規模なリコールを実施することとなりました。 2016年には、中国のKeen Security Labが初めてTesla車両のCAN busを遠隔で侵害することに成功しました。その後も2019年のPwn2Own大会でTesla Model 3のインフォテインメントシステムが攻撃され、2020年にはModel Xのブルートゥースキーフォブがハッキングされるなど、Teslaを標的とした攻撃が相次いでいます。 日本自動車工業会(JAMA)と日本自動車部品工業会(JAPIA)は、2020年3月に「自動車産業サイバーセキュリティガイドライン」を策定しました。このガイドラインは、自動車メーカーやサプライチェーンを構成する各社に求められる自動車産業固有のサイバーセキュリティリスクを考慮した対策フレームワークや業界共通の自己評価基準を提供することを目的としています。 UN-R155は、自動車のサイバーセキュリティ対策を義務付ける国際的な法規制です。この法規は、国連欧州経済委員会(UNECE)の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)で策定され、2021年1月に発効されました。